東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1903号 判決 1976年7月05日
控訴人
御法川工業株式会社
右代表者
御法川三雄
右訴訟代理人
岡部真純
被控訴人
糸田はる
右訴訟代理人
各務勇
外一名
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の本訴請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担する。
事実《省略》
理由
一被控訴人の本訴請求原因についての当裁判所の判断は、原判決の理由と同一であるから、これを引用する
二そこで、控訴人の抗弁について検討を加える。
この点の当裁判所の判断は、次に付加、訂正するほかは、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
ところで、野村は被控訴人に対し御法川三雄名義の盗難の事故小切手(金額一一五万円)を交付した前歴があるのであるから被控訴人としては、その直後に野村が右小切手の代替物として交付した本件手形二通についても一応その真否に疑念を抱くべきであり、とくに本件手形二通の振出人は、御法川工業株式会社(代表者御法川三雄)である(御法川という氏氏名はありふれたものではないから前記盗難小切手との関連が容易に想起されよう。)し、野村はタイル職人であつて、本件手形二通の合計金額は一〇〇万円であることに徴すれば、通常人であれば、野村が本件手形二通を正当に振出を受けたものかどうか疑念を抱くのが当然であり、手形振出名義人または支払担当銀行に照会するなどなんらかの方法で真否を調査するのが常識といえる(現に被控訴人は前記小切手については、関口善清の示唆により、受領後もなく調査をしている)。ところが、被控訴人は、前記の事情にありながら、かかる調査をなんらしなかつたのは、特別の事情の認められない本件においては、通常人の有する注意義務を著しく怠つたものであり、重大な過失があるというべきである。
<証拠>によれば、被控訴人は当時六四歳で保険外務員をしており手形、小切手の実務に関して習熟しているとはいえないが、すでに野村から何回か手形等を授受している経験があることが認められるから、手形、小切手について全く無知であつたものということはできず、前記認定を左右するに当らない。
そうだとすると、控訴人の抗弁二は理由がある。
三<省略>
(瀬戸正二 青山達 奈良次郎)